とある師弟の在り方

むかしむかし。

ある村に、小さな女の子が住んでいました。

女の子は、家の工房にこもって粘土をこねたり、絵を描いたり、何かを作ることが大好きでした。

 

女の子は少し変わったところがあったので、近所の人たちからは「悪い子じゃないんだけど、ちょっと変な子よね」と言われ、遠巻きにされていました。

女の子は、少しは気になりましたが、お父さんお母さんは優しかったし、何かを作っていれば幸せでした。
だから相変わらず、友達もつくらずに、工房で何かを作っているのでした。

 

あるとき、何人もの人たちがやってきて、村の人達にたくさんの事を教えてくれました。
その中に、なんでも作れるお兄さんがいて、女の子の興味を惹きました。

女の子は、お兄さんが作業している側に行って、

『ねえ、見ててもいい?』

と尋ねました。

お兄さんは、

「いいよ」

と答えました。

お兄さんが作業している間、女の子は黙って見ていました。
時々飽きると、そばで別の事をしていました。

 

お兄さんたちは、やがて村から去りました。
でもお兄さんも工房を持っていたので、女の子はときどき遊びに行くようになりました。
そして相変わらず、お兄さんの作業を眺めているのでした。

 

お兄さんは、とても優しい人だったのですが、口数が少なく、少し近寄りがたい雰囲気を持っていました。

そのため、ほとんどの人はお兄さんへあまり近づきませんでした。しかし、女の子はまったく気にせずに、お兄さんのところへ遊びに行きました。

お兄さんも、女の子が側にいても負担にならなかったので、自由にさせていました。

 

『ねえ、Kくん』

女の子は、お兄さんに呼びかけました。

「なんだい、Y」

お兄さんは、呼びかけに答えました。

『ぼくね、なんでだろう。
みんなぼくのことを“変な子”って言うんだよ』

「…………。
Yはなんで、女の子なのに“ぼく”なの?」

『あのね、性別とかに、しばられるのって、ヤなんだぁ』

「そっか」

『あのね、ぼくね、普通にしてるだけなんだよ。
普通にしてるのに、なんで“変”って言われちゃうんだろう?
いいんだけどさ……お父さんお母さんは、優しいし。
Kくんもいるし』

「気にしなくていいんだよ。
俺は、Yのことを“変”って思ったことはないよ。
YはYのままで素晴らしいから、そのままでいいんだよ」

『そうなのかな?』

「そうだよ」

『そっかぁ。ありがとう』

 

また別の日に、女の子は、お兄さんに尋ねました。

『ねぇねぇ、Kくん』

「なに?」

『Kくんってさ、おもしろいものを作るよね』

「ありがとう」

『ぼくも、ものを作るのが好きなんだ』

「うん」

ねぇ……
Kくんさ、ぼくのお師匠さんになってくれない?』

「お師匠さん?」

『うん、お師匠さん』

「お師匠さん、か…………」

お兄さんは、少しだけ女の子の顔を見つめたあと、言いました。

「俺をお手本にしてもいいよ」

『やった!』

「……でも、“お師匠さん”っていうのはやめよう」

『なんで?』

「あのね、本当はね、俺よりもお前のほうが、ものを作るのが得意だからだよ」

『Kくんの方がいいものを作ってるよ?』

「それは、俺の方がだいぶ年上だからだよ。
年のぶん上手に作れるけど、本当は、お前の方が何かを作るのは得意なんだよ。

なのに、俺をお師匠さんにしたら、俺よりもいいものが作れなくなっちゃうだろ?

だから、一時的に俺をお手本にするのはいいんだけど、俺を目指すのは、やめよう。
俺に追いついたら、そのまま追い抜いていけるように、お師匠さんっていうのは、やめよう」

『……追いつけるかな?』

「きっとね」

『そっかぁ』

「でも俺も負けず嫌いだから、追い抜かれたら、また追い抜き返すからね」

『そっかぁ!
そしたらどんどん、よくなっていくね!』

「そうだね」

 

女の子は、家族以外の認めてくれる人、そして目標ができて、一層生き生き伸び伸びと過ごすようになりました。

ご近所さんはひそひそを続けているんだけれど、もう気にもなりません。
それに、ご近所さんたちだって、どう接したらよいかが分からないだけで、女の子を悪く思っているわけではないのです。

 


 

その後、女の子がどうなったかというと。

相変わらず、こもって何かを作っています。

作ることを忘れたように見えた時期もありました。
でも、そう見えただけで、作りつづけていました。

 

長い長い間そうしながら、お兄さんのことは、忘れてしまいました。

お兄さんも、大変な日々を送ることになり、女の子のことを、忘れてしまいました。

 

しかし、さらに長い時間が経ち、再び出会う時がやってきました。
2人はお互いの事を思い出しませんでしたが、
また同じような関係を築き、仲良くなりました。

女の子はお兄さんを尊敬し、お兄さんの仕事を眺め、学びました。
お兄さんは女の子に惜しみなく教え、暖かく見守りました。

女の子は、お兄さんよりも得意になったことを、お兄さんに教えてあげました。
お兄さんもまた、女の子に教えてもらった以上になろうと、努力しました。

 

そうやって幸せな関係を築いていたある日、お兄さんが言いました。

「証明はできないですが……
僕らの前世と思しきものが、伝わってきたんですよ」

 

で、冒頭に戻る。

 

うん、そう、コレ、
わたしと霊媒師の先輩が生まれて来るずっと前の話(多分) です。

「むかしむかし」ですね、ほんとにw

 


 

本当の話かどうかは分からなくても、前世の話というのは心に刺さるポイントがすごく多いです……

現在における2人の関係ほぼそのままでしたし、
わたし……。物心ついたかつかないかの頃、父親の日曜大工を眺めてるのが好きだったんですよ…………
むっちゃ脳裏に蘇りました、その時のことが。
そして、お話を聞きながら思い浮かんだ光景に、すごく重なりました。

あと、わたしが家から出られるようになったころ、母が公園へ連れてって行ってくれたのですが。他の子にまっっっっったく興味を示さず砂場遊びばかりしてるから、「この子友達できるのかしら」って心配していたそうです。
工房が砂場に移っただけやん…………あっ もちろん基本的には家から出ません (今もじゃ)

わたしに限らず、前世(っぽい)景色というのは心を揺さぶられることが多いようです。
他の人のご反応はこちらにて。

 

前世というのは、忘れるべきだから忘れているのであって、無理に掘り起こす必要はないのですが。
必要なときに必要な景色を知ることによる癒やしというのは、すごいんだなあと思う次第です。

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