とある酔っぱらいの言い分

る日、霊媒師の先輩とお話していた際、言われました。

「昨日、面白い霊が来たんですよー。
酔っぱらいなんですけどね。
霊に酔ってるも何もないんですが、生前にとにかく呑んで暮らしていたから、霊になってもその状態みたいです。

酔ってるから、話に結論はないし同じ話を何度も繰り返すんですが、
『酔っぱらいの言い分ってこんななのかな』と思うとなかなか興味深いですよ。

20年くらい前に、60歳過ぎくらいまで生きた方のようで、最初は『誰も話を聞いてくれない』ということに怒り狂ってたんですが、今はだいぶ落ち着いてるので、ナツキさんも話してみますか?」

 

唐突なご提案に『えっ、あっ、お』ってうろたえてるうちに呼ばれてしまいましたw 待ってwww心の準備がまだですwww
パイセンのそーゆーとこマジさァ!(苦情)

 


 

酒飲みはさー、飲んでないとやってらんないのよ!!

もうね、つらいことが多すぎて、わけわかんない事が多すぎて、意識を失ってたいの、現実を見たくないの、いい気分になってたいの。明日仕事とか関係ないの、よく分かんない状態になってたいの。

どうしようもないのは分かってるんだよ? でもやめられないの。酒ってのはね、やめるか吐くしかないの。やめられないやつは、吐くの。

でも本当は、こんな、酔っ払ってなくても、幸せな明日が来て欲しいの。
でも明日のことなんて考えたくないから、酔うの。
努力とかね、できないの。
酔っぱらいは、未来のことなんて、考えてないの。今しか見てないの。それすらなんか、よく分かんない状態なの。現実なんて見てられないの。真面目な話し合いとか、する気ないの。真面目な話ってのは、未来に向けたもんだろ? 未来が良くなるようにって、やるものだろ? シラフでさ。酔っぱらいは、未来なんて見ないの。そんなきちんと、現実なんて見ないの。

 

俺はさ、ちょっと人より遅いだけなの。勉強もさ、人よりちょっと遅いだけでさ、やればできたかもしれないの。

最初は、ちょっと学校で遅れちゃっただけなの。でもさ、学校は俺の事なんて待ってちゃくれないから、どんどん先に進んでくわけ。それで俺もどんどん分かんなくなってくわけ。そうするとさ、家で親がさ、「こんな出来の悪い子供のために稼がなきゃいけないなんて」ってなるわけ。言われてない。言われてないんだよ? でもそういう空気がね、出るの。

俺は勉強できなかったから、学校卒業してすぐ働いたの。土方やってたの。でもさ、だんだん体も動かなくなってくるから、そうしたら今度、窓拭きの仕事するわけさ。
窓拭きはね、命綱あるから、あんまりあるわけじゃないんだけど、でも、たまには、事故が起こったりもするのさ。それでさ、若けぇのが、20とかそこいらの若けぇのが落ちたりするとさ……
俺とコイツの差ってなんだったんだろうなとか、思うわけ。

でもさ、俺はさ、ちょっと遅かっただけなの。
40になってからいろんなさ、文学とか興味持ってさ、読み始めてみたりしたんだよ。
でも、40じゃ、もう遅いの。

 

でもさ、そんな俺だからこそ思うけどさ、

人生、遅すぎるってことはないね。

これはさ、俺が一生かけて得た、教訓ね。

 

 

『……あのさ、おっちゃんはさ、
私はおっちゃんは立派だと思うよ。
勉強はできなかったかもしれないけど、ちゃんとできることやってさ。
体が持たなくなっても、ちゃんとできること、新しく窓拭きの仕事見つけて、始めて、立派だと思うよ。

親の人生は親の人生だよ。
親の人生が楽しくないのは親のせいであって、おっちゃんのせいじゃなかったんだよ。
子供の出来がわるくて悲しいのは、親が自分の人生を大切にしてないからであって、子供のせいじゃないんだよ。

文学だってさ、「40になってから」って言うけど、確かに社会は40から勉強しても受け入れてくれないけど、でもさ、だからこそ、立派だと思うよ。
40から新しく勉強を始めるのはたいへんだよ?すごい事をしたと思うよ。

確かにおっちゃんの人生は華々しくはなかったかもしれないけど、駄目な点もたくさんあっただろうけど、私はおっちゃんの人生も、勉強を始めたことも、無駄だったと思わないよ。
教訓いいじゃない。おっちゃんが人生をかけて教訓を得たこと、すごく意味のあることだよ。来世で活かせるよ。

今は、おっちゃんの生きた時代より更に大変になってるから、「また生まれてきなよ」って、簡単には言えないけど……
でも、落ち着いたら、また生まれてみるのもいいかもよ』

 

うん……そうかぁ……そうかぁ…………
「生まれてきなよ」って、言ってもらえるなんて、優しいなぁ……

 

でもさ、俺はさみしいよ。
俺が一生かけて得たこと、無駄じゃないって言ってくれたけどさ、そりゃ来世で活かせるんだけどさ、さみしい。自分だけっていうのは、さみしい。

誰かに活かしてほしいんだよ。俺が一生かかって気づいたこと、人に伝えたいんだよ。活かしてほしいんだよ。
人間は、自分のやったこと、誰かに言わなきゃ、さみしい。

だからこうして、死んでから20年も経ったけど、その間誰も俺の話なんて聞いてくれなかったけど、今こうして、あんたたちが聞いてくれて、よかったよ。
飲んでないと喋れないけどさ。あんたみたいのと、シラフでなんか、緊張しちゃって喋れないよ。

あのさ、死ぬとさ、孤独だね。
生きてる間もさ、あんま人と話できなかったけど、死ぬともっとそうなるね。ホントに自分と同じ人としか、話せなくなる。
俺は酔ってるだけで、人の話なんか聞いちゃいなかったから、そんな俺の話を、聞いてくれる人なんていなかったよ。
生きてる間だってそうだったけどさ、死ぬとさ、本当に同じようなのとしか、関われなくなるんだね。

でもさ、だからさ、幸せなやつは幸せなやつと話してるけどさ、じゃあ俺たちみたいのはどうしたらいいの?って思うわけ。
幸せなやつが幸せなやつと話してたって、頭のいいやつが頭のいいやつと話してたって、俺たちみたいのは、どうしようもないわけ。
自分じゃどうにもできないからさ、助けてくれないとどうしようもないんだけどさ、でも幸せなやつは幸せなやつしか相手しないからさ、俺たちみたいのは、いつまでも、どうしようも、ないわけ。

 

俺さ、死んだ後にさ、いろいろ見て回ったのね。
そしたらさ、夜の飲み屋でさ、俺みたいな生き方してる若けぇのがさ、飲み屋のオネーチャンにさ、適当にあしらわれてんのよ。

オネーチャンがさ、ゴテゴテした爪をな、若けぇのの口につけてさ、「これでチューね」とかやってんの。
オネーチャンはさ、営業なんだけどさ、若けぇのはさ、本気にしちゃってんのよ。
それがさ、営業だなんて、分かんないの。そんな頭はないの。ちょっとあしらわれて何万円も払うの。何万円がね、自分の日給の何日分とか、そういう計算はできないの。そんな頭はないの。

税金とかだってさ、分かんないの。給料のどんだけ取られてるとか、分かんないの。
もう俺さ、見てて可哀想になっちゃってさ……

 

 

それにさ、酔っちゃってるとさ、~◎△$♪×¥○&%#?!……

『おっちゃん、おっちゃん、
ロレツ回ってない、ロレツw』

酔っぱらいだもん、ロレツなんてぇのは◎△$♪×¥○&%#?!……

『おっちゃん、おっちゃん、
今日はここまでにしよw 今日はもう寝よ?』

△$♪×¥……&%#?!……

『おっちゃん毛布ある? そうだ、せっかくだからプレゼントしようか。
どんな毛布がいい? 羽毛布団とか、ふかふかの布団の方がいいかな』

※霊的世界では、思い描いたものがそのまま物質化されます (物質じゃないけど)

毛布……毛布……かけてくれるのかぁ……
やさしいひとが、いるもんだなあ…………

『…………
どれかじゃなくて、全部かけようか、
冬だからね、寒くないようにね、
毛布と、羽毛布団と、ふかふかのお布団ね。

隙間ができると寒いから、タオルケットも入れとくからね。
おっちゃん、敷き布団はどうしよう?生きてるときはどんな布団で寝てたの?せんべい布団だった?』

薄い布団で寝てたよぉ……

『じゃあ、かえって薄い方が落ち着くかもしれないねw
いい感じのせんべい布団ね。気に入らなかったら自分で「こういうのがいい」ってやってね。でも寒いといけないから、床は断熱材にしておこうか。
いっそ部屋作るか……暖炉。暖炉はどう?』

暖炉……暖炉の火は、いいなぁ……

『よし暖炉ね。部屋は程よい広さね。窓もあるから、朝になったらいい景色が見えるからね。
そうだお酒。お酒いるよね。テーブルの上にワイン置いておくからね。いいワインだよ。欲しくなったら飲んでね。
あと、レモン水も並べておくね。要らないかもしれないけど、スッキリしたくなったら飲んでね。
おっちゃんが亡くなってずっと後にね、飲食店のお水にレモン水が流行ったんだよ。ちょっとレモンが入っててね、なんか、スッキリするの』

やさしいなあ……やさしいなあ……

『うん、うん、おやすみ。
いい夢を見てね』

 

今思えば、おっちゃんはワインより焼酎とかウォッカなイメージだし
暖炉のある丈夫で良い部屋には薄い布団って合わないかもしれないw

 

 


おっちゃんは他にも、

「何もないやつばかりが子供を生みたがると言うけど、そんなの当たり前。
何かを生み出せるやつは子供がいなくても何かを生み出せる。
でも、何もないやつは何も生み出せない。
何かを生みたければ子供を生むしかない。
何もないやつでも、子供は生めるから」
とか

「女はいざとなれば体売ればいいけど、男はそれすらできない」

とかも言ってました (どんな風に言っていたのか忘れてしまったので、本文からは省きました)

 

普段関わらないタイプの方ですから、
「そういう考えもあるのかあ」
「同じように思いながら生きてる人、いるんだろうなあ」って、とても参考になりました。

賛同しかねるところもありましたが……
「実際には、頭良ければいい、ってわけでもないんだよ……」とか。
「女性なら体売ればいい」って発想も、少なくとも私には絶対無理ですし。
言われたときは「そういう風に考える人なんだ……」って、残念にもなりました。

 

でもね、最後にね、たかが毛布(イメージの)をあげただけでね、
「やさしいなぁ」って、しみじみ深々言われて、びっくりしてしまいました。

本当に、大したことはしてないのに。
そして、現実だったら毛布どころか、こんな風に酔っ払いを相手することなんて無理です。絶対できません。逃げます。吐かれるしw

(「やめるか吐くしかない」がなるほどすぎるww)

「生まれてきなよ」のところもそうですが、おっちゃんの感謝はすごく深くてまっすぐで、あまりにも輝いていて、胸を打たれると同時に、こんな私が、いただいて良いんだろうかと、戸惑いも覚えました。街中でおっちゃんを見かけても、確実に無視するこんな私が。
本当に、美しい想いだった…………

素朴なんだ。素朴なだけなんだなぁ。
おっちゃんなりに一生懸命考えたことを言っただけで、「本当は違う」とか、そういうの、なく、ただ、言っただけなんだ。

 

おっちゃんが生まれ変わって来るとしたら……
「もはや、飲んでなくてもふわふわ酔っ払いみたいな赤ん坊になるかも」という先輩のお見立てでしたがw

どうしようもない人ではあるかもしれないけど、
すごい純粋で素朴なこの人が、明日を考える辛さからお酒に逃げなくて済むような世の中に、なっていてほしいなと思います。

「なっていてほしい」じゃだめか。したいです。
「したい」って表現を使うのは勇気が要るけど……、望む事があるのなら、他力本願じゃだめだもんね……

 

ま、叶ったらそれはそれで、現実逃避でなく呑んで吐いてるのかもしんないけどさw

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