- 話の発端
生きてるって何?
『そうだねぇ。
これはまず、「生きてる」の意味を2つに分けようかな。
体が生きてる
一つめは、「体が生きてる」ってこと。
少し難しい言い方をするけど、
「肉体の生命活動が維持されている」ということ。
「心臓が動いている」ということ。
「脳が活動している」ということ。
簡単な言い方をすると、
「応じてくれる人がいたら、その人と握手をできる状態にある」ということ。
……手がない人もいるから、握手で言うのは良くないかもしれない。
「誰かに抱きしめてもらえる可能性がゼロではない状態」と言った方が正しいのかな。
想像するのがなんだかちょっと恥ずかしいから、握手くらいに留めたかったけど、そういう言い方をして手のない人が悲しいと思ってしまったら、悲しいもんね。
体が生きてるを終えてしまったら、心はきっとちょっと違うところへ行ってしまうから、抱きしめてもらっても、分かるけど分からなくなってしまうと思うんだ。
だから、抱きしめられたら分かる状態が、
体が生きているということ。
抱きしめられても分からないくらい、ぐっすり寝ている間をどう考えるかは、ちょっと難しいけど。
生きてるんだけどね。
何て説明するのがいいのかは分からないや。
心が生きてる ~「またやりたいなあ」に出会い続けていること ~
二つめは、「心が生きてる」ってこと。
「体が生きてる」は分かりやすい。
生きてるときと、生きてるを終えたときの違いがハッキリしていて、本当に終わってしまうともう戻ってこられないから。
でも心は本当に終わるということがないから、
何が「生きてる」なのか、説明するのが難しいんだけど……
きっと、人によっても答えが違うし。
「心のことは関係ない」という答えの人も、きっといる。
正解があるわけではなくて、
人によって答えが違って、
でもみんな正しい。
それでいいのかもしれない。
それも、「生きてる」の、一部なのかもしれない。
ほとんどの人がそう思わなくても、
わたしは、
心の「生きてる」も大切だなあと思ってる人でね。
だから、難しくても、「心が生きてる」ってなんなのか、説明してみるね。
それはね、
「またやりたいなあ」に
出会い続けていることだと思ってるんだよ。
お菓子、おいしいなあ、
また食べたいなあ
お風呂、気持ちいいなあ、
また入りたいなあ
公園、楽しかったなあ、
また遊びに来たいなあ
すごくよかったこと、
よかったからまたやりたいなあって思えることに
出会い続けていることが、
「心が生きてる」ってこと。
どんなに良かったことも、
ずっと続けていくと
「あれっ、『またやりたいなあ』って、思わなくなっちゃった」
ていうことがあるのね。
お菓子はおいしくて、
「また食べたいなあ」って思ううちは食べるのがいいんだけど、
同じものばかり食べて飽きちゃったとか、
虫歯になって痛くて食べられなくなっちゃったとか、
本当はいっぱい食べたいけど、自分が食べると弟の分が残らなくて、泣いちゃうから嫌だなって思ったりとか……
「またやりたいなあ」って思わなくなる理由はいろいろある。
実は、本当に好きだったのはお菓子じゃなかった、ってこともある。
いっぱい食べるとママが喜んでくれるとか、
お菓子はそこまで好きじゃないけど
見たことのないお菓子は味が気になるとか、
お菓子を食べるといい気分になる、落ち着くとか。
これは、「また食べたいなあ」よりも、
「またママに喜んでほしいなあ」とか
「知らないことを知るのは楽しいなあ」とか、
「いい気持ちになりたいなあ」なのね。
同じ「また食べたい」だけど、
実は違うの。
これについてはまだしばらく、
長男くんには分からないことだと思うんだけど、
分からなくていいから、伝えておくね。
最初は本当の「またやりたいなあ」だったけど、
途中からあんまりそう思わなくなったり、
違う「またやりたいなあ」だったって気づいたとき、
次の、本当の、
「またやりたいなあ」を、探していくの。
そして見つけて、喜びとともに、
「またやる」の。
これをできているとき、
心が「生きてる」。
体と心の調和度が高いほど「生きてる」。
それで、
体の「生きてる」に、
心の「生きてる」が、
一致、調和……
体と心が仲良しであればあるほど、
その人は「生きてる」。
体の「生きてる」は、みんな生きてるから分かりやすい。
心の「生きてる」は、分かりにくいから、分からない人もたくさんいる。
だから、実は体と心が仲良しじゃない、
一緒に「生きてない」人も、たくさんいる。
そういう人たちも「生きてる」なんだけど、
それは「時間が過ぎている」であって、
「『生きてる』とはちょっと違う」って、
思うんだなあ。
同じように考えてる人は、あまりいないと思うのね。
長男くんの知りたかった「生きてる」に、合わない答えだったらごめんね。
それでも、
わたしの「生きてる」の中で見つけた
「生きてるの答え」は、今はこんな感じだよ。
長男くんの知りたい「生きてる」の答えにも、
たどり着けるといいね。
長い話に付き合ってくれてありがとう。
これで終わりです』
「(長すぎて疲れてしまったようで、
声を出さずにこくんと頷き、
走り去っていった)」