クマの最期を看取るだけの物語

弱ったクマが民家のウッドデッキで倒れており、
発見から24時間以上移動しなかった末に
殺処分された、というニュースを見ました。

上記の記事だと、わたしの記憶とは違うのですが……

わたしが見た内容だと、
時期は2021年ではなく22年の秋で、
いきなり倒れていたのではなくその前にも何度か訪れていた痕跡が見受けられ (庭の柿を取ったり水を飲んだり)、
そして窓ガラスには舐めた跡がついていた (人間に助けを求めたのかもしれない)、
というものでした。

写真も、似た構図ではありますが柱はなく、クマの頭が右側にあったような……

探しても探しても上の記事しか見つけられなかったので、勘違いということなのでしょうが……
日々いろんな情報を流し見してる中で、パッと眺めたうちの一つに過ぎませんからね……!

パッと眺めただけなんですけどさァ……!

あとからじわじわ じわじわ心に来て……!

クマちゃんがねたとえ無害な子であってもね人里と距離近すぎたら殺処分になってしまうのは仕方のないことだと思うのですこれでいいとは表現しがたい気持ちあるけどでもだけどこれでしょうがないですそう受け止めるしかないのだてことはいちおう分かってるのです (関連記事)

とはいえさァ!!

悲しいじゃん!!!

静かに穏やかにやってきて
敵意なんてなくて
助けを求めて (たかどうかはクマのみぞ知るだけれども)
なのに…… って

あまりにも悲しすぎるじゃんか
うをああぁーーーーー!!!!

というわけで

人間が
弱ったクマちゃんを排除することなく
優しく親切にしてあげる夢小説が
爆誕しました
爆誕ッッッッッ!!💣💥

とはいえ

小説にできる才能はないです
思いつくままを吐き出しただけのものです
読むに耐えなくてもご堪忍ください
公開するにあたっては迷いしかないッッッ!!

(訳:とてもはずかしいんだよぉ!!)

(なんか デジャヴを かんじる)



いつも通りの昼下がり。
小腹が減ったわたしは作業を中断して、おやつを食べようと台所へ向かった。

せっかくだからお茶も淹れようかなあ、甘いのが欲しいわ……
なんてぼんやり考えながら階段を降りていくと、なんか音?
聞き慣れない、変な音がする……?
音?
いや音というほど音でもなくて……
気配と呼べばいいのか??

その元を探そうと周りを眺めるまでもなく、見慣れない影が視界に入ってきた。
階段を降りてやや右寄りの正面が台所になっていて、その右側に庭へと出られるサッシ窓がありウッドデッキへと続いているのだけれど、
窓の下の方が、土でも積まれたかのように大きな影で覆われている。

『え、なん……

!!???』

影が、わずかに動いた。
それは土ではなく、土のような色をした毛皮の大きな生き物だった。

『く、熊……!!』

なんでこんなとこに!!

この家は山と町の境目にあるから、いつ熊が来てもおかしくはないんだけど……!!
だからって本当に来たらビビるよ!!
だめだよ!!
山へお帰りください!!!

頭の中に混乱が激しく渦巻いてその場で固まっていたら、熊は窓越しにわたしの存在になんとなく気がついたらしい。

縁側に寝そべって頭だけ窓へ押し付けていた姿勢を少しだけ起こして……
手を動かそうとしたものの、あまりうまくいかなかったらしい。
首を少しだけ上に傾けて、ペロペロと窓を舐めはじめた。
透明な窓ガラスに唾液の跡がついていく。

今までもそうしていたのだろう、身を起こす前に頭があったあたりにも同じ跡がついていた。窓枠に遮られて、その面積は小さかったけれども。

ちょ、え~~~~
え~~~~~
えぇ~~~~…………

そんな、どうしたら……
ええ……
どうしたら

動揺する気持ちはあったものの、
その弱々しい様子に警戒心よりも好奇心が勝ってしまい、ゆっくりと窓辺に近づいた。
手を伸ばせば開けられる位置で足を止めて、しゃがみこむ。

熊は必死で何かを訴えるように、わたしの方を向き、窓を舐める速度を早めた。
しかし、疲れてしまったらしく、その動きはすぐ元の速度へ戻ってしまい、やがてはさらに遅くなっていった。

恐る恐る、窓を開けた。
熊は舐めるのを止め、少しだけ頭を窓から離した。
それ以上動く気配はない。

窓を開けきると、熊は再度首を動かし、わたしに向かって小さく一声鳴いて、ぐったりと頭を床に落とした。
ウッドデッキと段差のないサッシのレールに顎が乗り、土や砂がわずかに室内の床を汚す。

……「助けてください」ってことなんだろうけど……

どうしたらいいんだ。

犬猫が同じようにしてきたら、まずおやつだろう。
でも、我が家に熊の食料とできるものはないと思うし……
いや、雑食だから何でも食べるといえばそうなんだろうけど。

思いを巡らせていたら、庭の柿の木の存在を思い出した。
実が熟すまでもう少し待とうかと思っていたけれど、今でも食べられないほどではないだろう。
そもそも、熊だって本当はこれが欲しくて来たのだろうし。

取りに行こうとして、
『その前にお水をあげようかな』と思い立つ。
適当な器に水を張って、恐る恐る熊の口元まで押しやる。
すると熊は、ようやくという感じで頭を重たそうに上げ、ぴちゃぴちゃと水を飲み始めた。

その間に、柿をいくつか取ってくる。
さすがに熊をまたいでいく勇気はなかったので、玄関を回って庭に出た。

戻ってくると、器の水はほとんどなくなっていて、熊はそれを飲む前と同じように頭を床に下ろしていた。

柿の実からヘタだけ適当に切り落とし、水とは別の器で熊の元へ押しやる。熊は、弱々しく首を伸ばしてそれを食べ始めた。

その間、水を入れ直してまたそばに置き、食べている様子を眺める。

非常にゆっくりと噛んで、静かに飲み込み、二個を食べたところで、またもとのようにぐったりと静かになった。
ふぅ……という感じで少しの間休み、小さな声をひと鳴き発すると、もう動く気配がない。

そのまま少しの時間が過ぎた。

どうしても、どうしても……
良くないと分かってはいるけれど、どうしても、好奇心を抑えられなくて。
恐る恐る手を伸ばし、そっと頭を撫でた。
熊は怒る素振りも嫌がる素振りも見せない。動かない。

調子に乗ってもっと近づいて、もっと撫でた。
何の抵抗も感じられない。

そのまま、よしよしするように撫でたり、手を取って握ってみるなどした。

熊の毛や肉球は結構硬くて、そして乾燥していてパサパサで、触り心地が良いとは言いがたかった。
爪もすごい。こんなのを振り回されたら、そりゃぁひとたまりもないだろう。

けれど、撫でている間、とても心地良かった。

この子が幸せであって欲しいなと思った。

日が暮れてきた。
さすがにずっとこのままではいられない。
窓も閉めたい……
けど、熊ちゃんが……

できる限りの穏やかさを心がけながら、
「ごめんね、少し動かすね」と声をかけた。
熊は動かなかったけれど、閉じていた目をゆっくりと瞬いた。
少し撫でて、体に手をかける。
抵抗の様子はなかった。

そのまま持ち上げるというか引きずるというか、とにかく窓の開け閉めでぶつからない位置まで体をずらさせてもらった。
決して軽くはなかったけれど、でも、見た目やイメージからすると、「重い」と表現するには軽すぎるように感じた。

さっきと同じように口元のところへ水と柿を置いて、窓を閉めた。
残された屋内で、熊の倒れ込んでいたところを軽く掃除する。

そのあと、普段は閉めておくその窓のカーテンを開けっ放しにする他は、いつもと同じく普通に過ごした。
時々窓に目をやると、熊は動かずそこにいるようだった。

次の日の朝になっても、熊は変わらずそこにいた。
夜の間ずっとここにいて、寒くはなかったのだろうか。

置いていた柿は一個減っていた。水も少し減っていたと思う。
そっと窓を開け、しゃがみ込んで小さな声で
『おはよう』と声をかけるとゆっくりした瞬きが返ってきた。
そっと撫でながら
『ここにいて寒くなかった?
 帰らないの?』
と続けた。

それ以上の返事は特になかったので、
器の水を換えて置き直すと窓を閉じた。

その日、いつもいる部屋ではなくこの窓の隣で過ごすことにした。
作業道具を持ってきて設置する。
といっても、必須になるのはノートPCとマウスくらいなのだから、気楽なものだ。

作業をしつつ熊の様子に気をやるが、時々少しだけモゾモゾと動く他はじっとしていた。
水を飲むことはあるが、柿を食べる様子はない。

それでも、この日は買い物へ出た際に、いくつかの柿を買ってくることにした。

柿ばかり食べさせるのもどうなのかとは思うけど……
りんごはどうだろう、弱ってるしちょっと硬すぎて食べられないかなあ……
でもそれを言うなら、柿だってそこそこ硬い方だし……

みかんは……う~ん、熊にはすっぱいかな……
バナナは柔らかいし食べやすいと思う、だけど足が早すぎるから……

改めて、熊って何食べるんだろう。
雑食だから、何でも行けるっちゃ行けるんだろうけど……
蟻も食べるらしいけど、それはさすがに用意できないしなあw

いろいろ考えて、結局柿と、くるみを1袋買ってきた。

帰るころには夕方になっていた。
また水を換え、減っていない柿の皿に柿とくるみを追加する。

ふと思い立って、口元に一個柿を運んでやると、ゆっくりと食べた。
二個目は食べなかった。

そうして、一日の終わりをまた迎えることになった。
陽が落ちて、気温が下がってくる。
熊は今日も、動く気配がない。
今夜もきっと、ここで明かすことになるのだろう。

使い古して買い替えを迷っていた布団を持ってきて、熊にかけてやった。
さらにその上へレジャーシートを乗せ、隅に重りを乗せた。

熊をゆっくりと撫でて……

わたしもそこへ潜り込んだ。

どうしたって、多少の隙間風は入ってきてしまう。
それでも、わたしには布団だけでなく天然の毛皮もそばにあるからか、寒いというほどではなかった。
床の硬さの方が問題だ。
かといって、この状況で何か敷くのは難しいな……

本当は干し草とか、用意できればいいのだけど。
せめて、この急しのぎの布団と風避けで、ほんの少しだけでも快適になってくれたら。
そう思いながらできるだけ身を寄せて、体を撫でた。

うとうとする意識の中で、熊の匂いを感じていた。
熊の体臭はキツいと聞いていたけれど、そんなに気になるほどではなかった。……メスなのかな。
それ以上に、あまりにも弱ってるせいなのかもな……。

でも、それとは別に、ほのかな不快臭が漂っているような気がする。
これは……人間も発することがあるもの。
肉体の終わりを目前とした者が発し始める、独特の香り。

そうだと思ってはいたけれど……

この子はもう、先が長くはないのだろう。

何年くらいを生きたのだろうか。
子育ては何回してきたのだろうか?
ねぐらの中では、今のわたしがしているように、子熊たちが寄り添って来たのだろうな。
いや、オスかもしれないけど……

いずれにしても、家族との時間はきっと、幸せだったに違いない。

そんな想像を巡らせているうち、
意識は薄れてゆき、眠りに落ちていった。

次に目が覚めたとき、熊の呼吸はまだ続いていた。
動いて大丈夫かな、起こしちゃうかなと気にかけながらも様子を伺うと、熊はうっすらと開けた目でこちらを見ていたので『おはよう』と声をかけた。
そして撫でると、熊はうっとりと目を閉じた。

『柿は食べる?』と口元へ持っていったところ
舌先で軽くちろりと舐め、それ以上のことはしなかった。
今はいらないということなのだろう。

身を起こすと、板の上で寝た体がバキバキと痛みを覚えた。
それを努めて無視し、軽く曲げたり伸ばしたりしながらなんとか動かして、熊の飲み水を換える。
風呂に入り、そして出た頃には太陽の温かさが朝の肌寒い空気に勝り始めていたので、熊にかけていたシートと布団をめくっておく。
それからPCを立ち上げ、わたしはわたしの一日を過ごすことにした。
この日も、窓辺で。

昨日と同じように、陽はどんどん昇っていって、そして降りていき、辺りが暗くなるとそのうち温かさが引いて肌寒さが忍び寄ってくる。

今日の熊は、ピクリとも動かなかった。
何度か柿を口元へ持っていったが、反応はなかった。
切ってやっても、剥いてやっても同じだった。
命の灯火はまだ、かろうじて尽きてはいないようだけれど……

そのことを確認して、布団とシートをかけてやる。
もちろん、今夜も潜り込む気は満々だ。
また体が痛くなるだろうことは心配だけれど……
その代償を払う価値を、わたしはこの時間に対して感じている。

そんなふうに覚悟を決めていたら、熊の毛が少し揺れた気がした。
柿を食べたいのだろうか。それとも水を飲みたいのだろうか?
しゃがみこんで話しかけようとしたところ、熊が少し息を荒げているような気がした。

苦しそう……だけれど、苦しんでいるわけではないのだと、感じた。

声を、出そうとしている?

『大丈夫?』
穏やかな声をかけながら、首から肩にかけてをゆっくりと撫でた。

熊は少しの間、ヒューヒューと声にならない声を上げた。
もう動かせない体を、しかしなんとか動かそうと……
首を動かそうと、声を上げようとしているらしいのが見て取れた。

目が合った。
熊はもう、こちらをしっかり向く元気は残っていないはずなのに、まっすぐに、しっかりと、目が合ったと……
そう感じる瞬間があった。

それと同時に、
力強さのこもった声を一鳴き上げた。

音としては、弱かったのかもしれない。
だけれど、確かな意思を、その声から感じ取れた気がした。

目撃したばかりなのに、本当に見たのか聞いたのか自信がなくなるような、
どこか夢のような……
そんな一瞬が過ぎたあと、熊は完全に脱力していた。

生命を生命たらしめる“何か”は、もうそこにはいないのだということがなぜか分かった。

お疲れさま。
助けを求めに来てくれてありがとう。
あなたの最期を、共に過ごすことができてよかった。

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