辻ヒール
記念すべき1人目の相手は
13歳の女の子。
……中学生かぁ……
なんというか、あんまり若いと
本人よりも親御さんをみたほうが
良かったりするんだけど……
大丈夫かな。
まあ
できることをやってみましょう。
コンコン、ノックから始めます。
『こんにちは、はじめまして。
お邪魔してもいいですか?
あなたの心の状態を、診させてもらってもいいですか?』
ここで拒絶されたら無理に踏み込むわけには行かないんだけど、
幸い彼女は歓迎してくれました。
人が来てくれたことが嬉しいみたい。
そして、思ったよりも状態は悪くなさそうで安心しました。
彼女の辛さを否定するわけではないのですが、
うっかり一線踏み越えそうな危うさはない感じ。
精神を侵害されているということもなくて、
これは病んでいるというより、エネルギーが不足していることによる落ち込みだなあ。
健康でも、元氣でも
お腹が空いていたらその状態を維持するのは難しい。
精神にも似たようなことは言える。
とりあえずはエネルギー補充で良さそう。
……その後の補給まではできないから、一時的にしのいだだけで終わるかもしれないけど……
『じゃあさっそく……
って、あ、ちょっと待って、甘いもの食べたくなった、おやつ食べてからまた来てもいいですか (゚∀゚)』
仕事をするにはエネルギー補給が要るんじゃ (゚∀゚)
ここでまさかのNG。
『いや、その、そんなに時間かからないから』と説得してもNG。
行かないでほしそうに悲しげに引き止めてくる。
無理やりではないんだけど。
……寂しいんだな。
せっかく来た話し相手に、立ち去らないで欲しいんだな。
今の生活の中に、居場所がないんだな。
『うーん、じゃあ、そっちじゃなくて、
わたしの部屋に来てもらって、そこで待ってもらってもいいですか?
散らかっててごめんですが。
あるものは好きに見てくれてていいので』
と伝えたところ、それならOKとのことでした。
わたしの家に来て彼女はまず、本棚をじーっと眺めていました。
わたしは本棚にレースカーテンをかけているので、
『興味を惹くタイトルはあるかな?』と、
全部のタイトルが見えるようカーテンを避けました。
特にコレという本はないようですが、
眺めているだけで満足なのか、興味深そうにしげしげ見ています。
わたしがおやつ (シリアル) の準備を始めたら、
本棚を離れてこちらに着いてきました。
そして、「スキムミルクって、なに?」と、
それを溶かしているわたしに聞きました。
『牛乳を粉にしたものだよ。
でもそのまま粉にするんじゃなくて、
保存性を高めるために脂肪分を抜いてから
水分を飛ばして粉にするんだよ』
「ふーん」
どうも彼女は好奇心が強い性質のようだったので、一緒に知識も伝えてみました。
(でも内容合ってたかは自信ない)
(アカンやんけ)
ミルクを溶かしながら、もう少し続けました。
『ベジタリアンを目指してるから、いつもはアーモンドミルクを飲んでるんだけどねえ。
今ちょうど切らしちゃったから、以前に買ったスキムミルクを使い切っちゃおうと思ってさ。
ほら、そこにあるのがアーモンドミルクのパックだよ。
ミルクとは言ってもサッパリしすぎているというか、シリアルには少し味気ないんだけど、生クリームを足すといい感じになるんだ。
うーん、でも、やっぱり、
牛乳には牛乳のおいしさがあるねぇ』
そんなふうにベラベラしながら、
自分のことを話しすぎたかなと思って、相手にも聞いてみました。
『普段、牛乳、飲む?』
「あまり飲まない。
あまり好きじゃない」
『そうなんだね』
そんなこんなでわたしがもぐもぐしているとき、彼女は寝転がって本を眺めながらのんびり待っていてくれました。
特に退屈そうな様子もなくて、よかった、せっかちな子ではなかったらしい。
急かされないのは大事である……!
(まあせっかちな人にはせっかちな人の魅力があるんだけどさ)
「あれ、お日様だ。
雪なのに、お日様が出るんだ!」
『(どうやら雪国住まいではないようだ)
うん、そうなんだよー
きれいだよねぇ』
って窓に近づくと、
『おわー!
ずいぶんキレイな雪が降ってるねぇ……!』
「ほんとだ!キレイキレイ!!」
『窓開けて見てみよう見てみよう。
写真も撮っちゃおう』
「窓開けたら (雪が) 入ってきちゃうよ!」
『いーのいーのちょっとくらい。
こんなキレイなの、ちゃんと見なくてどうするの……!』
『……で、お待たせしました。
やるよーーー』「なにこれテント!? すごい!!」
『ふふふ……
寒さ避けにね、作ったんだよ』そんなこんなで
わちゃわちゃしながら施術開始。深刻ではないし、
とても素直な子だったし若かったしで
浄化と調整はほぼ要らなくて、
エネルギー補充だけガッチリやりました。……でもなあ
現状の生活の中で補給できないのに、今だけ対応してもなあ……本当にいいのかな、わたしは却って余計なことをしただけではないだろうか……
そういう迷いもあったけど、
いいんだ、やるんだ、やると決めたんだ
わたしの仕事はわたしができることだけやって、あとは相手を信じることだ
それ以上は踏み込まないという言い分で自分を説得しました。
『はい、終わり。
帰れる?』「うん」
晴れ晴れと帰る彼女に、あれ?と思って声をかけました。
『えっ 帰れるの??
わたしいなくなるわけだけど、
さみしくない??
来た時は離れるの嫌そうだったのに』「うん?
うん。
さみしいってよく分かんなくなっちゃった」悪い意味ではなく、良い意味で、
さみしさがどうでもよくなったようです。
さっきそうだったばっかりなのに、
もうその感覚を忘れちゃったようだ。大丈夫一色なそのお返事を聞いて、
『とりあえず効果はあったようで、よかったー』と胸をなでおろしつつ、
お別れしたのでした。現実の方の経過は追えないけど、
なにか良い影響が出ているといいなあ。